人的資本にきちんと投資をして、将来に向けて競争力をつけていきましょう。これは、人的資本経営の文脈でよく語られるトピックだ。しかしここにはとても難しい論点がある。
それは、イノベーションの世界でいうところの、イノベーションのジレンマだ。人的資本にイノベーションを起こそうとすると、このジレンマにはまりこんでしまう。
もくじ
Toggle人的資本イノベーションのジレンマって何?
自社の社員がこれまでの業務のやり方をしっかりと覚え、お客様にしっかりと対応し、満足してもらっていると、会社や部門としては、社員にそれを継続してもらいたくなるものだ。また、そのやり方そのものを変更することも非常に難しい選択肢となる。あと数年すると通用しなくなるかもしれないとわかっていてもなお、現状のやり方を変えられないのである。
また、社員側としても、このままでは通用しなくなるかもしれないとわかっていても、日常は忙しく、また変にやり方を変えない方が、いまこの瞬間は高い成果を創出しやすい。また、もし勝手にやり方を変えてしまいクレームとなれば、大いに問題となる。そうであるならば、無難に今のやり方を守っている方が良い。短期的には、主要なお客様にはその方が安心すらしてもらえる。
これが、会社にとっては人的資本を将来に向かって進化させていきたい、イノベーションを起こしていきたいと考えた時にぶつかる壁、ジレンマなのである。
短期的に成果を残すのが一番得をする?
部門としても、その人の得意なことをやってもらって、高い業績をあげるのが1番よい。部門長の任期も短ければ2、3年、長くても4、5年ぐらいだと考えれば、未来よりも現在の好業績のためにあらゆる手段を尽くそうとするのが自然である。
そもそも人事制度は悲しいことにそのようにできあがっている。最も得意なことを、いまこの瞬間やることが、今年(あるいは数年先ぐらいまでは)は最も得をするのである。
人的資本経営が大事だと言いつつも、まだまだ投資家は短期が大事?
そもそも、投資家も、これまでは、短期的な財務成果を求めてしまっていた。ナイフを突きつけられた企業は、何よりも今期の業績確保に懸命になってしまう。「だって仕方ないでしょ、ご飯を食べるためには業績を確保し、お金を稼がないとないダメなんだから。」このように、実際まことしやかに言われ、正当化されてしまっている。
「人的資本イノベーションのジレンマ」を研究テーマのひとつとします
では、どうすれば良いか。さらに難しいことに、任期の短い経営陣にとっても、今年、来年、再来年ぐらいの業績がとても大事になる。だとすれば、イノベーションをしかけるインセンティブはますます減退する。表面的にテクニックとして足掻く方法はいろいろと思いつくが、本当にどうするのか?については、人的資本イノベーションの研究の成果をお待ちいただきたい。人的資本のイノベーションが起きにくい現状のメカニズムを解きほぐすとともに、そのジレンマの乗り越え方についての研究を行っていきたいと考えている。