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No.9 賃上げ 悪魔の辞典風:人的資本版

・やってもやっても終わりがない怖い政策
・コストをかけてせっかく賃上げしたのに、社員の不満を逆に高めてしまう怖い政策
・これをきっかけとして退職者が増えてしまうという思わぬ波及がある怖い政策
・せっかく賃上げしても、1年も経つと、もはや誰も喜んでいない怖い政策

 賃上げの動きが止まらない。昨今のインフレ率の状況と見通し、各社の動向、日本のグローバルでの相対的な位置づけ等も踏まえると、日本企業の賃上げの動きは当面続いていくことが見込まれる。年収を引き上げること。それは、従業員にきっと喜ばれる施策だ。そう考えるのが通常である。しかし、実際には、賃上げを実施した企業での、不平・不満が止まらない。会社としては何億円も投じて実施した賃上げ。結果出てきた従業員の声は…

・なんでうちの会社は賃上げ率がこんなに少ないんだ?物価の方が上がってるし!
・競合の〇〇社はもっと上がっている、転職しようかなぁ。
・なんで自分はこれしか上がらないの?ほかの人はもっと上がっている。
・自分は苦労して、今の水準に辿り着いた。自分より若いやつが、何の努力もせずに自分の水準にスッと近づくのは許せない。
・新卒入社者と給与差がほとんどなくなった。おかしくないか。

などの声を非常に良く聞く。
 さらに残念なことに、今年の賃上げのことは、1年も経てばその水準が当たり前になり、もっともっととなってしまう。
 当たり前だが、どのような能力、どのような職務に会社としてどの程度のコストを投じるのかについて、マーケット、事業成長見通し、物価見通しなども総合的に踏まえ、経営として意思決定をすることが必要になる。しかし、日本企業は、過去30年ほど、ほぼこの意思決定から遠ざかってきている。それは物価が上がっておらず、場合によっては、物価が下がることもあった。そのような状況では、貨幣価値にそこまで意識を及ばせる必要もなかった。しかし、これからは状況が違う。貨幣価値はどんどんと変化していく。今の100万円は、5年後には、確実に目減りする。そこを見誤ると、自社には人が集まらなくなるし、優秀な人から抜けていくことになるだろう。さらに、企業は、自社の従業員の金融資産を守るための金融教育までも施すことが必要になってきているのである。賃上げもせず、みんなが銀行預金だけをしているような企業は、早晩、滅んでいくことになりかねない。