人的資本経営が、開示項目を増やす仕事になっていないでしょうか。数字を並べる前に必要なのは、未来の事業を成立させる組織と人材の設計です。私は、その設計図を「人事中計」と呼んでいます。
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Toggle人的資本経営が、少し小さく扱われている
人的資本経営という言葉が広がり、多くの会社が人材データを集め、KPIを設定し、開示を充実させるようになりました。これは大切な進歩です。ただ、そこで話が終わると、人的資本経営は「人事情報をきれいに説明する活動」になってしまいます。
本来問われるべきなのは、その会社がこれからどんな事業をつくり、そのためにどんな組織と人材が必要なのか、ということです。女性管理職比率、研修時間、エンゲージメントスコア。どれも重要です。しかし、未来の事業とのつながりが説明できなければ、指標は指標のままです。数字が増えても、経営は前に進みません。
私は2010年前後から、こうした経営と人事の間にある計画を「人事中計」と呼び、考え続けてきました。当時から、人事は毎年とても忙しい。それでも、仕事の多くは起きた問題への対応になりがちでした。忙しいのに未来をつくる時間がない。この状態を変えたかったのです。
未来の事業と、人・組織を一本につなぐ
人事中計は、人事部の施策予定表ではありません。経営・事業戦略を起点に、必要な組織能力、カルチャー、人材ポートフォリオ、要員数、人件費、生産性、KPI、具体的な施策までを一本の線でつなぐ計画です。
例えば、新しい事業領域へ踏み出すなら、どんな専門性を何人確保するのか。社内で育てるのか、外部から採るのか、提携で補うのか。既存事業の人員構成をどう変えるのか。意思決定の速さや部門間連携をどう高めるのか。ここまで考えて初めて、「人を大切にする」が経営の言葉になります。
開示は、計画の代わりにはならない
順番は明快です。まず、未来の事業と組織・人材の姿を描く。次に、そこへ進むための重要課題と打ち手を決める。そして、進捗を測るKPIを置く。開示は、その考え方と進み具合を社内外に説明するものです。
開示から始めると、説明しやすい数字ばかりが残ります。人事中計から始めれば、その会社が本当に変えなければならないことが残ります。
私は、「人事中計なくして、人的資本経営はできない」と考えています。少し強い言い方ですが、人的資本経営を流行語で終わらせないためには、このくらいはっきり言った方がよい。人事中計は、人的資本経営を経営として実行するための土台なのです。
人事中計があれば、開示のために言葉を探す必要も減ります。自分たちがどんな未来を選び、何を変え、どこまで進んだのか。それを率直に語ればよいからです。開示の質は、文章表現より先に、経営として何を考えたかで決まります。


