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人事中計は、現状分析から始めてはいけない

計画づくりは現状分析から。常識のように聞こえます。しかし、人事中計で最初に現状を詳しく調べると、未来よりも「いま困っていること」に引っ張られます。ここに、人事計画が小さくなる落とし穴があります。

調べるほど、課題は増える

人事制度への不満、採用難、次世代リーダー不足、研修のマンネリ化、部門間の壁、エンゲージメントの低下。現状を丁寧に調べれば、課題はいくらでも出てきます。どれも嘘ではありません。放っておいてよいわけでもありません。

ただし、「いま、よくないこと」と「未来を実現するために、必ず変えなければならないこと」は同じではありません。前者を全部並べると、人事中計は大量の改善項目を抱えた業務計画になります。会議では誰も反対しません。全部もっともだからです。そして、全部を少しずつ進め、会社の何が変わったのか分からなくなります。

現状分析から始めた計画は、しばしば不満の大きさに影響されます。声の大きい部門、回答率の高いアンケート、最近起きた問題が上位に来る。しかし、経営上の重要性と、社内で目立っていることも同じではありません。

最初に置くべきなのは、未来の仮説

私が人事中計をつくるとき、最初に考えるのは現状ではありません。5〜6年先に、事業がどう変わり、そのとき会社がどんな組織・人材でありたいのか。その「右上の姿」を先に置きます。

もちろん、未来を正確に予言することはできません。だから仮説でよいのです。市場、顧客、技術、働き手、競争環境がどう変わるかを考え、経営と人事が対話し、いったん目指す方向を定める。その未来と現在を見比べて初めて、何が本当の課題かが見えてきます。

将来、デジタルと現場の両方を分かる事業リーダーが大量に必要になるなら、その候補層が薄いことは重要課題です。一方、現行研修の受講率が少し低いことは、必ずしも最重要課題ではありません。未来を置くことで、課題に優先順位が生まれます。

現状分析をしないのではなく、順番を変える

誤解してほしくないのですが、現状分析が不要なのではありません。先に未来の仮説を置き、その実現可能性を検証するために現状を見るのです。すると、集めるデータも、インタビューで聞くことも、議論すべき論点も変わります。

現状から始めれば、計画は現在の延長線になりやすい。未来から始めれば、現在を変える理由が生まれる。

例えば、社員インタビューも「困っていることは何ですか」と聞くだけでは、要望が集まります。「5年後の事業を成功させるために、いまの組織の何が壁になると思いますか」と聞けば、未来への障害が見えてきます。同じ現状分析でも、問いが変われば、得られる事実の意味が変わります。

人事中計のおもしろさは、ここにあります。目の前の人事課題を上手に片づけるだけではなく、まだ存在していない会社の姿から、いま何を始めるべきかを考える。人事が未来を待つ側ではなく、未来をつくる側に回るのです。