新人を受け入れてほしい。次のリーダーを育ててほしい。育った人は成長事業へ送り出してほしい。その一方で、今年の売上目標は据え置き、部門の生産性も下げてはいけない。こうした条件を並べておいて、育成への協力を求めていないでしょうか。
もくじ
Toggle協力した部門だけが不利になる
例えば、経験者10人で仕事を回していた部門に、新人2人を配属したとします。新人がまだ十分な成果を出せず、売上が同じなら、単純計算で1人当たり売上は下がります。教える側の時間も必要です。
ここで「人数を増やしたのだから、もっと売上を上げられるはずだ」と迫られたら、部門長はどう考えるでしょうか。次からは新人を受け入れたくなくなります。育った社員を他部門へ送り出せば、今度は自部門の稼ぎ手が減る。人を育てるほど、自分の部門の目標達成が難しくなります。
それを「部門長の育成意識が低い」で済ませるのは、少し気の毒です。会社が求める行動と、会社が評価する結果がぶつかっているからです。育成は重要だと言われても、評価で問われるのが足元の数字だけなら、社員の善意に頼ることになります。
戦力化までの時間を計画に入れる
書籍では、この矛盾に向き合う一つの工夫として、「投資人材」と「戦力人材」を分けて見る考え方を紹介しています。人の価値に優劣をつけるための区分ではありません。これから力を発揮できるよう育成中の段階と、期待する役割を担っている段階を、経営管理上で区別する考え方です。
大事なのは、人を増やした直後の生産性低下を、受け入れ部門の責任だけにしないことです。どれくらいの期間で、どの仕事を任せられる状態にするのか。教える側の工数をどう確保するのか。育成期間中の負担を、どこまで会社として引き受けるのかを事前に決めます。
同時に、会社全体の人件費や、全員を含めた生産性は、そのまま確認します。新人を計算から外して数字をよく見せることが目的ではありません。全体の費用を把握しながら、育成投資の進み具合も別に確かめるのです。
育成期間は、全職種一律に決める必要はありません。初期配属の仕事によって、独り立ちに必要な期間も違います。例えば、支援があればできる段階から、一人で担当できる段階へ進んだかを見る。入社から何年たったかだけで、機械的に戦力化を判定しないことも大切です。
人を送り出す部門も報われる設計にする
人事中計で5年後に必要な人材を描くなら、その人材を、どの職場で、誰が育てるかまで考えなければなりません。育成を担う部門の目標や評価を調整せず、研修と配属だけを決めても、現場の協力は続きません。
将来の事業へ人材を送り出した貢献を評価する。引き継ぎ期間を確保する。送り出した後の仕事を減らす、あるいは分担を変える。こうした条件を経営と合意しておけば、部門長も安心して人を育てられます。
私は、人事中計の価値の一つは、このような現場の矛盾を経営の課題として扱えることだと思っています。育成担当者の工夫だけで解けない問題を、部門目標、人件費、配置、評価まで含めて考えるからです。
刊行予定の『人事中計の作り方』(仮題)では、人数の計画に、戦力化までの時間や組織の受け入れ能力をどう織り込むかも扱います。人を採る、育てる、動かすという言葉の間には、現場が引き受ける仕事があります。
育成を大切にしたい会社ほど、まず、育成に協力した人と部門が損をしないかを確かめてみてください。掛け声を増やす前に、変えられる条件があるはずです。


