現在の人件費が100億円。5年後の目標が80億円。それなら20億円分の施策を考えればよい。引き算は正しいのですが、計画としては足りないことがあります。抜けているのは、何も変えなくても動いていく5年間です。
もくじ
Toggle比較する相手は現在だけではない
書籍で取り上げている、仮の数値例を考えてみましょう。現状の人件費は100億円です。いまの採用や退職、昇給、昇格などの運用を続けると、5年後には120億円になると試算されました。一方、経営が示した目標は80億円です。
この場合、施策によって埋めるべき差は、120億円と80億円の間にある40億円です。現在との差である20億円分だけを抑えても、5年後の人件費は100億円。80億円には届きません。
もちろん、20億円の抑制にも大きな意味があります。何もしなければ120億円になるところを、100億円にできたからです。ところが、現在の数字とだけ比べると「これだけ頑張って、人件費は全く減っていない」と評価されかねません。計画を誤るだけでなく、施策の効果まで見誤ってしまうのです。
成り行きを描くと議論が具体的になる
ここで必要なのが「成り行き」の試算です。現在の人数と平均人件費を、そのまま5年後へコピーすることではありません。いまの運用を続けたときに、人とお金がどう動くかを見ます。
社員は年齢を重ね、昇給や昇格が起こります。退職者が出れば、補充する人の職種や経験によって人件費は変わります。事業構成が変われば、必要な専門性も、その確保にかかる費用も変わるでしょう。
そうした前提を置いて初めて、どの変化に対して、何の施策を打つのかが分かります。総額だけを眺めて「もっと効率化してほしい」と言うのと、どの業務に何人分の工数がかかり、その仕事をどう変えるかを議論するのとでは、計画の具体性が違います。
この試算は、経理や経営企画に任せ切れる仕事でもありません。人材の構成、戦力化に必要な期間、配置や育成の難しさを知る人事と、事業部門が一緒に考えてこそ、意味のある前提になります。
目標の数字も検証の対象にする
もう一つ大切なのは、この例を「40億円を何が何でも削る話」にしないことです。80億円という目標そのものが、将来の事業を成立させられる水準なのかも検証しなければなりません。
書籍の例では、施策を入れて試算し、それでも残る差を確認したうえで、目標も見直します。無理に人件費を押し込めた結果、必要な専門性を失い、売上計画まで崩れるなら、表の数字が合っただけです。
業務を減らす。仕事の分担を変える。必要な領域には投資を増やす。その効果が表れるまでの時間も織り込む。それでも両立しない条件が残るなら、経営に何を選ぶかを問いかける。人事中計では、この往復から逃げられません。
刊行予定の『人事中計の作り方』(仮題)では、現状、成り行き、目標を並べ、施策とシミュレーションを行き来する考え方を紹介しています。人件費の表を、経営が選択するための資料として使えるようにしたいと考えています。
御社の人件費計画には、「何も変えなければ、どうなるか」が入っているでしょうか。その数字を一つ加えるだけで、人事と経営の会話はかなり変わるはずです。


