1人当たり売上が下がっている拠点がある。そこで採用を止め、人員を抑える。一見、合理的な判断です。ところが、その判断によって営業がますます売れなくなることがあります。数字に間違いがなくても、判断は間違うのです。
もくじ
Toggle営業の時間はどこへ消えたのか
書籍では、営業と営業事務が分業している拠点の例を紹介しています。営業が商談をまとめ、営業事務が契約書を作る。ところが営業事務の退職が重なり、契約書がなかなか出てこなくなりました。
営業はお客様を待たせられません。結局、自分で契約書を作り始めます。残業は増え、顧客へ足を運ぶ時間は減る。すると、1人当たり売上も下がっていきます。
本社から見えるのは、売上が伸びず、生産性が下がっている拠点の数字です。「ここへ人を入れるのは難しい」と判断すれば、営業事務の不足は解消されません。営業は引き続き事務作業を抱え、売る時間を失っていきます。
営業担当者の人数だけを見れば、人はいるように見えるかもしれません。しかし、その人たちが営業の仕事に使える時間は減っています。組織図には出てこない分業の崩れが、数字の裏で起きているのです。
数字を根拠に結論を急いでしまう怖さ
私は、人事施策は数字で考えるべきだと繰り返しお伝えしています。だからこそ、数字を見た途端に考えるのをやめないでほしいと思っています。
例えば、100拠点のデータがExcelに並び、追加で配分できる人材は20人しかいない。そんなとき、1人当たり売上が下がった拠点は、詳しく事情を聞く前に候補から外されやすいでしょう。比較のために集めた数字が、調べるべき現場を見えなくしてしまいます。
必要なのは、指標を増やすだけの対応ではありません。売上の低下に対して、市場が縮んだのか、営業のやり方が悪いのか、営業以外の仕事が増えたのか、いくつかの仮説を置く。そのうえで、職種別の退職、残業、仕事の分担を確かめます。
現場に「最近、営業以外に何をしていますか」と聞けば、表を眺めるだけでは分からなかった事情が出てくるかもしれません。数字を読む力と、現場へ聞きに行く姿勢は、両方必要です。
人事中計には機能のつながりを描く
この例から考えたいのは、営業事務をいつでも増やすべきだ、ということではありません。契約業務の標準化や集約、自動化が有効な場合もあります。重要なのは、営業が売る時間を取り戻すために、何が必要かを考える順番です。
人事中計では、事業を伸ばすために必要な機能を整理し、それぞれを誰が、どれだけの工数で担うかを考えます。営業だけ強化しても、それを支える機能が詰まれば、全体の成果は上がりません。間接部門を減らしたつもりでも、その仕事が営業へ移っただけなら、仕事は消えていないのです。
刊行予定の『人事中計の作り方』(仮題)では、人件費や生産性の指標の使い方と併せて、数字で課題に切り込む怖さも取り上げています。指標を紹介するなら、その数字で何が分かり、何がまだ分からないかまでお伝えしたいからです。
次に生産性の低い部門を見つけたら、削る人数を決める前に、その部門の人たちが何に時間を使っているかを確かめてみてください。必要なのは、削減とは逆の判断かもしれません。


